カブール会合を終えて、アフガニスタンの将来に関する考察

 今日7月20日、カブール会合が開かれた。これは東京会合やロンドン会合などのような、アフガニスタンに関する国際会議の一つなのだが、今回の会合は非常に国際社会の注目を集めた。何故なら、アフガニスタンが中心になって行われたこの規模の国際会議はタリバン政権陥落後初めての事だったからだ。報道によれば、70カ国以上からの外相が集まったということだ。国連のバン・キムン、アメリカのヒラリー・クリントンも訪れた。日本からも岡田外務大臣が参加した。

 カルザイ大統領は会議の中で、2014年までにアフガニスタン政府が治安をコントロールできるようにすると公言した。既にアメリカは2011年7月から段階的に軍隊のプレゼンスを縮小していくと発表していたので、それに歩調を合わせた発言だと言える。

 また、国際社会からの支援金を、NGOや国際機関ではなくアフガニスタン政府に直接財政投資して欲しいとも発言した。エコノミックヒットマンではないが、援助の半分くらいは欧米のコントラクターや警備会社に流れていると言われている中で、アフガニスタン政府の長として当然な発言をしたと言えるだろう。

 これに対して国際社会は、汚職対策をしっかりして欲しい、これからも支援をし続ける等々、いろいろな意見を発表した。こうした状況の中で、アフガニスタン政府が取り組まなければならないことが山積しているが、特に、以下の2点に関して特に対策を取っておく必要がある。

 1つは、ガバナンスだ。汚職対策もガバナンスに入るが、僕が特に気にしているのはカルザイ大統領がいなくなった後の政治的混乱だ。去年の大統領選挙の後に行われた閣僚人事で身に沁みて感じたことだが(ノミネートされた大臣が何回も国会で却下されたのであった)、アフガニスタンには政党政治がないので大枠でコンセンサスを取ることが困難だ。例えば、閣僚を国会が承認する際に、もし政党があればその後の成り行きが概ね予想できそうなものだが、アフガニスタンにはそれがないので国会議員個人個人に判断がゆだねられることになる。国会議員の中には国の将来を考えて判断をする人もいれば、個人の利害だけを考えて判断する人もいて、まとめるのが非常に難しい。

 アフマド・ラシッド氏は、アフガニスタンに政党政治がない事について、

「It was his biggest mistake, and ultimately he would suffer because of his failure to build a political organization」
(それ[政党政治がない事]は、彼[カルザイ大統領]の一番大きな誤りであった。そして、結局彼自身が政治組織を作る事に関する失敗によって苦しむのであった)
Ahmad Rashid, "Descent into Chaos", p.258


と述べている。カルザイ大統領は、過去の歴史を見て、政党というものが存在すると大統領の権限が弱まり、国を一つの方向に動かしていくのが難しくなると考えたのだろう。しかし、政党がないことで野党的(反大統領)な意見が集積されて脅威となることがなくなった代わりに、まとまった意見を作りだすことも非常に難しくなった。また、国会議員一人一人に対する統制がきかず、矮小な話をすれば、賄賂がなければ支持しないというような、しょうもない国会議員ばかりが増える土壌も作ってしまった。

 僕は、20年後のとある朝、まだインクの匂いがしそうな朝刊を開いたら「アフガニスタン政権転覆」という見出しが載っていた、というような悲しい思いは絶対にしたくない。いや僕の思いなどどうでもよかった。内戦に飽き飽きしているのはアフガニスタン人自身だろう。だから、2014年に外国軍が去り、そしてカルザイ大統領が次の大統領にバトンタッチした時に、副大統領や国防大臣や国会議員らが次の大統領を総意として支持するような、そしてその総意が簡単には崩れないような政治システムを作ることがもっとも重要だと思う。

 2つ目は、治安だ。2014年までに、アフガニスタンの治安組織に権限を委譲してISAFは撤退することになるだろう。現在の予定では、カルザイ政権誕生当時の治安分野改革の戦略通り、軍閥や非合法武装集団を解体して、アフガニスタンの軍隊と警察を強化し、中央政府が治安をコントロールする方向に進めていくことになっている。

 しかし、中央政府が反政府勢力を抑えられるかと問われて、絶対大丈夫と即答できるアフガニスタン勤務経験者は少ないだろう。カルザイ大統領はカブール市長と5、6年前から揶揄されていたが、現在も状況はそれほど変わっていない。

 こうした状況で最も重要なのは、パキスタンの関与だ。僕が思うに、パキスタンがダブル・ゲームを止めない限り、タリバンの攻勢は弱まらない。ここまで明言はしないだろうが、同様に考えているアフガニスタン・ウォッチャーは多いだろう。1992年以降の内戦時代に、タリバンに資金や武器を援助していたのはパキスタン政府だし、2001年にタリバン政権陥落後、タリバンをパキスタン領土に空輸していたのもパキスタン政府だ。この点に関しては、国際社会がパキスタンに対して外交的プレッシャーを与え続けるしかないだろう。

 もうひとつ大事なのは、中央政府が一括して治安を掌握するのか、地方に権限をある程度委譲するのかを明確にすることだ。現在のアフガニスタンでは、武器を持たない個人は全て取り締まる方向でDDR/DIAGを進めているが、同時並行的に、地方のミリシアを武装化するAPPP(Afghanistan Public Protection Program)というもの行われている。簡単に言うと、完全に矛盾する2つのプログラムが同時並行で行われているような状況にある。後者のプログラムはまだ小規模なものだが、中央政府がヘルマンドやカンダハルやウルズガンやザブールやホーストなど、周辺部まで全てをコントロールするのは難しいのではないかという感触が広がりつつある中で、基本方針としてどうするのかをアフガニスタン政府は明確にする必要がある。ダメならダメで方針転換すればいい。方針がないままなんとなく進むのが一番怖い。

 まとめると、アフガニスタン政府が今回のカブール会合で公言した約束を守り、安定した政権を運営していくためには、上に書いたようなガバナンスと治安に関する対策強化が重要になる。アフガニスタンの置かれた状況というのは地理的にも地政学的にも非常に複雑なので悲観的なシナリオを書くことはいくらでもできるかもしれない。しかし、果たしてそれが僕のするべきことだろうかと自分に問いかけると大きな疑問符が付く。僕達外国人はアフガニスタン人が大空に飛び立つ為に補助走行をするのが役目だ。だから、悲観的なシナリオではなくいつも希望を持てるアドバイスとエールを僕は送り続けたい。



2010年07月20日:Generalkenta

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