アフガニスタンの社会構造-ウチ・ソト意識-

最近、同じアフガニスタン人が、公共の場所と内輪の集まりでは見せる態度が全く異なることを不思議に思ったりする。こうした態度は、アフガニスタンの社会構造や人間関係というものをよく表しているのではないだろうか。

何事も一般化できないが、概してアフガン人には客人をもてなす文化がある。パシュトゥンワリと呼ばれるパシュトゥン人の行動規範のようなものの中でも、「バダル(復讐)」と並んで「メルマスティア(客人歓待)」というのがパシュトゥン人がすべき事の一つとして語られる。

実際に、アフガニスタンで生活してみると、ドアの前で他の人とかち合うと「ペファルマイッド(どうぞ)」や「メラバニ」と先に進むように道を譲ってくれることがほとんどだし、同僚の部屋に仕事の質問に行くだけでも「チャイ・メホリ(チャイでもどうぞ)」や、昼時に行けば「ノン・ボホ(ご飯食べて行けよ)」と言われることが日常の風景となっている。客人をもてなすことが一つの文化になっていて微笑ましい。これは、家族や友人や客人に分類されるカテゴリーに適用されるようだ。

一方で、公共の場所においては、アフガニスタン人は全く別の顔を見せる。一番顕著な例は、道路の上でのマナーだろう。ドアの前では道を譲ってくれるアフガニスタン人も、公共の道路の上では、自分の車が少しでも先に進むように、我先に車を運転する。少しの隙間があれば、そこに車の鼻先をねじこむ。そこには、オフィスで感じられたような、譲り合いの精神や相手への思いやりというものが微塵も感じられず、これが同じ人間かと思わず顔が青ざめてしまうほどの変貌ぶりに驚く。

同じように、公共の精神というものが感じられないのは、川や山へのゴミの投げ捨てにも見られる。プラスチックや発泡スチロールのゴミでも何でも、カブール市内の川や道端や山のいたるところに見られる。

同じアフガニスタン人にも関わらず、身内に対する態度と公共の場所での態度が全く異なるのは、アフガニスタンの社会構造と深いつながりがあるのではないか。簡単に言えば、アフガニスタンにはウチとソトの意識が著しく高いという特徴がある。これは日本でも都会ではなく田舎で見られる傾向だろう。ウチとソトを明確に区別することには、ウチ側の社会の凝集性を高めるという機能があると言える。ウチにおける相手への思いやりや譲り合いの精神は、一体感や連帯を生みだし、社会の秩序につながる。

こうした背景には、アフガニスタンがおかれた地理的な環境や自然などがあると言えるだろう。周囲が自分の所属する集団に対して優しくない環境だと、その集団の一体感は高まる傾向がある。例えば、学校で部活をしていて、上級生の仲があまりよくなく下級生の自分達が不満のはけ口になっているような状態だと、妙に自分の所属する下級生集団同士が仲良くなっていたというようなことはよくあるだろう。アフガニスタンの農村部のように、国家の司法制度や治安制度が行き届いていない社会では、コミュニティー内の連帯を強めて、自分たち自身による話し合いなどを通じた紛争解決方法で生きていくしかなかったのだろう。村の外には盗賊や山賊がいて、村を出るとそこには何があるかわからない、信用できる人がいるかどうかわからない、と農村部の人々が考えたとすれば、こうした発展は不可避的なものだったのかもしれない。

逆に言えば、ウチとソトへの高い意識は排他性を生む。第二次世界大戦におけるドイツや日本は典型的な例と言えるだろう。戦後のドイツや日本は、世界で規律や勤勉さの代表と見なされているが、同じ国が戦争と言う特殊状況では人間の想像力の越えるような残虐さを見せるというのは興味深い。

同じように、日本人同士が海外でたまたま顔を合わせた際に、時として感じる険悪な雰囲気というのも、排他性と関連がありそうだ。海外の空港や街角で、どちらかが声をかけるでもなく相手をウチの人間として迎え入れようか、ソトの人間として排他しようかという葛藤の後、ソトの人間として分類された場合には、日本人同士でもものすごく険悪な空気が流れる。一緒にいる外国人が「日本人がいるよ、話しかけてくれば?」などと言われても、「まぁ、別にいいよ」とそっけなく返して無視してしまったりすることはあるだろう。反対に、海外で同業他社の日本人に出会った場合は、親しみを感じて、話さなくてもいいようなことも話して、いつでもメールを下さいと名刺を交換して急に仲良くなったりするのも日本人の特徴だと言えるかもしれない。

あんなに優しい眼をしたアフガニスタン人が、ナジブラー政権崩壊後にムジャヒディン同士の内戦に陥ったのもこうした社会構造と関係があるのかもしれない。これを逆に利用して、アフガニスタンの社会全体が「ウチ」になれたならば、とても住み心地のいい社会になると思うのだけれど。そんな社会がやってくる事を一人夢見ている。



2010年07月27日:Generalkenta

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